当時、エドゲインが起こした一連の事件が与えた社会への影響は計り知れないものでした。
精神異常者が巻き起こした常軌を逸した殺人事件は、ある種ブームとも呼べる狂乱を巻き起こし、映画や音楽といったカルチャーにも多大な影響を及ぼします。
彼をモデルにした映画の中には、現代まで語り継がれる名作と呼ばれるものが数多くあり、またその映画に影響を受け生まれた日本のマンガも存在しています。
ここからは彼の影響を受け生まれた文化の中でも代表的な映画を見ていきましょう。
目次
ヒッチコック監督作品「PSYCHO(サイコ)」
この「PSYCHO(サイコ)」は1960年、「サスペンスの巨匠」と呼ばれた映画監督、アルフレッド・ヒッチコックによって製作されました。
公開するとともに稀代の傑作サイコホラー・サスペンスと評判を浴びた名作で、この記事を見ている皆さんの中にも見たことがあるという人は多いでしょう。
ただそうでない人のために、「PSYCHO」の簡単なあらすじだけご紹介しましょう。
舞台はアリゾナ州、借金を背負っているため結婚に踏み切れないサムという男性のために、その交際相手のマリオンは出来心で、勤めている会社の売り上げ金を横領してしまいます。
横領したそのお金でサムと一緒になるため、彼女は男性の住む町へと車を走らせますがその途中、休息をとるためモーテルへとチェックインします。
ノーマンという青年が年老いた母と2人で経営しているというそのモーテルはどことなく不気味な雰囲気を醸し出しています。
マリオンは精神的な疲れもあるため、早めの休息をとりたいと早々に食事を済ませシャワーを浴びるのですが、シャワーカーテン越しに現れたのは、ナイフを手にしたノーマンでした…。
得体のしれない恐怖が少しずつ近づいてくるような緊迫したカメラワーク、実際に息遣いまで聞こえてきそうな焦燥感…。
ヒッチコックの映画技法の素晴らしさは多くの人々の心を捉えました。
またこの映画に登場する精神異常者の心情をリアルに描き出し、狂気と恐怖を演出したことでも話題を呼びました。
しかしこの映画の一番の見どころは登場する殺人鬼の精神の狂気性であると言えます。
そしてその狂気性のモチーフになったと言われているのがエドゲインなのです。
常軌を逸した精神性と、母親、そして女性への異常ともいえる強い執着。
これらの異常性をエドゲインを参考にして見事にスクリーンに描き出し、サスペンス映画に新たなジャンル、「サイコホラー」を定着させたのです。
エドゲインをモチーフにした映画は他にも?
世紀のサイコキラー、エドゲインをモチーフにした作品はこれだけではありません。
不朽の名作とされる映画は「PSYCHO」の他にも数多くあります。
有名なものを紹介していきましょう。
悪魔のいけにえ
1973年ごろ、テキサス州では墓荒らしが多発しており、盗掘した死体をモニュメントのように飾り立てるという奇怪な事件が続発していました。
そんなことは知らない男女の若者のグループが夏休みを利用し、テキサスへとドライブに出かけますが道中で不気味な男のヒッチハイクに応じてしまいます。
男の言動に異常さを感じた彼らは男を追い出しますが、タイミング悪く車がガス欠を起こします。
立ち寄ったガソリンスタンドもガソリンが切れており、立ち往生を余儀なくされた一行は、足止めついでに近辺の空き家を散策することにします。
しかし訪れた空き家の中には醜悪なオブジェが記念品のように並んでおり、異様な雰囲気。
空き家に足を踏み入れると、人間の皮のようなものを被った異常な姿の男、「レザーフェイス」が現れ…。
「醜悪なオブジェ」、「人間の皮を被った男」という特徴でおわかりの通り、「レザーフェイス」のモチーフはエドゲインとなっています。
墓から死体が盗まれ、身体のパーツを使ったオブジェが作られているなど細部まで事件の内容をオマージュしていますね。
羊たちの沈黙
ミズーリ州カンザスシティで、女性ばかりが狙われる連続殺人事件が発生します。
しかもその犯行は身体の一部の皮をはいで川に沈めるという残虐で異質なもの。
「バッファロー・ビル」と呼ばれる犯人の人物像を探るため、FBI候補生であるクラリスは、優秀な頭脳を持ち精神科医を勤めていたレクター博士という人物と接触します。
レクター博士は患者を殺害し食していたとして逮捕、収監されている異常者ですがクラリスは彼との会話の中で犯人への手がかりを少しずつ掴んでいき…。
こちらも超がつくほどの有名作品ですね。
この映画の連続殺人犯、「バッファロー・ビル」の人物像や犯行は過去の凶悪殺人犯を基にしており、エドゲインも皮を剥ぐという特異な犯行や犯人の歪んだ性癖のモチーフとなっているようです。
ゴールデンカムイも影響を受けた?!
アニメ化もされた大人気漫画、「ゴールデンカムイ」の作中にも、明らかにエドゲインをモデルとしたキャラクターが登場しています。
その人物の名は江渡貝 弥作(えどがい やさく)といい、名字の響きからもエドゲインを意識していることがわかりますね。
彼は人間の皮を加工し革細工を作製する奇人で、作中でも材料を調達するために夜な夜な墓を漁り、死体を調達していることが描写されています。
幼少期に母親から受けた歪んだ愛情が彼の人格を形成した結果、人間の皮に執着する異常性を発現してしまったということです。
名前、設定などどの視点から見ても間違いなくエドゲインの影響を受けたキャラクターですね。
またアニメや実写などあらゆるコンテンツで人気を博した剣客マンガ、「るろうに剣心」にもエドゲインをモデルにしたキャラクターが登場するようです。
人間の死体を基にした人形を作製し、それを鋼の強度の糸で操り戦う、自称「芸術家」の悪役として描かれており、その名も「外印(げいん)」となっています。
こちらも名前からしてあからさまなモチーフとなっていますね。
エドゲインの生い立ちが衝撃的?原因は母親?
エドゲインは生まれながらにしての殺人犯だったわけではありません。
彼がなぜこんなことをしたのか、というのは当時から現在まで研究され続けています。
その中で最も有力であり、かつわずかに哀れとすら思える理由の一つが、病に侵された父親と、母親からの歪んだ愛情によるいびつな生い立ちでした。
エドゲイン、エドワード・セオドア・ゲインは1906年、ウィスコンシン州で母・オーガスタと父・ジョージの間に次男として生まれます。
ゲインの母オーガスタは、キリスト教の中でもとくに保守的で、厳格な教えを持つ旧ルーテル派という派閥の信徒であり、人間の邪悪な部分への嫌悪から他人に厳しい性格だったと言います。
父のジョージはアルコール依存症であり、頼りにならなかったことからオーガスタは「すべての男性はみな邪悪である」と考え、息子2人はそうすまいと教育を行うことを決意します。
エドゲインは母親からゆがんだ教育を受けていた?
ジョージ一家はやがて同じウィスコンシン州のプレインフィールドで農場を営むことになります。
その農場が少し辺鄙(へんぴ)な立地だったこともあり、オーガスタはこれ幸いと兄とゲインを学校へ行く以外、外の世界と関わらせないことを徹底します。
聖書を毎日のように読み聞かせ、加えて「周りの人間はみな汚れているから友人を作るな」と指導します。
特に飲酒、それから異性とのかかわりについては最も禁忌であり、絶対にかかわらないようにと徹底して教育を行っていたようです。
しかし幼きゲインには敬愛するオーガスタの教えが全てだったため、この頃に教わったことが彼の中心になっていきます。
そんな日々を経て成長するゲインでしたが父ジョージと兄ヘンリーが相次いで亡くなると、オーガスタも精神的ショックから体調を崩し、やがて亡くなってしまいます。
もはや天涯孤独の身となったエドゲインに残されていたのは、母オーガスタによる歪んだ教えと抑圧された衝動だけでした。
やがて彼は、夜な夜な墓場を掘り返しては、女性の死体から皮を剥いで衣服や日用品を作製する、という狂気的な行動を行うようになります。
女性の身体をまとうことで自分が敬愛する母親と一体化することを求めた、というのが心理的な要因であると言われています。
エドゲインの逮捕後
「狂気の死体漁り」、エドゲインは逮捕後すぐに裁判にかけられました。
しかし彼はもはやまともな状態ではなく、「精神分裂症」(現在でいう統合失調症)と診断されたのです。
精神病患者を罪に問うことはできないため、なんと判決は無罪となります。
彼は刑に服すことなく精神病院に収容されました。
エドゲインの最期
精神病院で過ごす彼は穏やかで、職員や患者とも打ち解け模範囚として過ごしたと言います。
そんな日々を過ごしエドゲインは1984年、77歳で肺がんによりこの世を去ります。
彼の遺体は自身が最後に過ごしたプレインフィールドの墓地の中、彼のすべてだった最愛の母親、オーガスタの隣に埋葬されています。
検索してはいけない人物、エドゲインは後世に大きな影響を与えた
今なお話題に上ることの多い伝説のシリアルキラー、エドゲイン。
その血と狂気に塗れた生涯、そして彼の記念品ともいうべきおぞましきコレクションの数々をご覧いただきました。
彼は死後も映画やアートなどの芸術の分野にもその影を落とし、衝撃を与え、畏怖され、あるいは崇拝され続けているのです…。